脳死

『1年生の解剖学辞典』~ 解剖学をこれから学ぶ人向けの用語解説 ~
 

 脳死(brain death, cerebral death)とは、ヒトの死の基準のひとつで、全体や、その中でも特に脳幹が機能しているかどうかで、生死を区別する方法。脳は生命の維持に不可欠なので、脳が機能しなくなり、これが戻らないことがわかった段階で、そのときのほかの臓器の状態にかかわらず、ヒトの死とする考え方。これに対して、心臓が機能しているかどうかで生死を区別する古典的な基準を心臓死という。植物状態(植物人間)では生命維持に必要な脳幹が機能し続けているので、脳死とはまったく別。

 のうち、とくに脳幹は生存に必須の機能を担っている。たとえば、脳幹には呼吸中枢があって、もしも、脳幹が機能しなくなったら、自発呼吸が停止する。ふつうは呼吸が止まれば、体中の細胞酸素を行き渡らせられなくなるため、個体の死を意味する。しかし、病院で人工呼吸を受けていると、脳が機能しなくなり、自発呼吸が止まっても、体には酸素が供給されるので、心臓をはじめとする体の各器官や細胞はしばらくの間、機能し続ける。でも、脳(脳幹)がふたたび機能する可能性がないのであれば、この状態もすでに死であるとする考えが脳死。脳死は、高度医療や臓器移植の可能性とともに、注目されてきた。

 脳死の定義は、「が再び機能し始めることがないのであれば」という前提に立っているので、実際に脳死の基準を使う場合には、脳がまた機能し始める可能性があるのかどうかを、どうやって間違いなく調べられるかが重要となる。このため、臨床的な脳死の検査は時間をかけて多数の項目にわたって検討されるようになっている。また、どういう病気の時に脳死と紛らわしい状態になりやすいか、大人よりも脳がふたたび機能する可能性が高いとされる小児ではどう判定するか、なども整理されている。ただし、生死の判定は法律にも関係するので、脳死の基準は国によって定義や検討方法が違っている。

 植物状態では、脳幹が機能し続けていて、自発呼吸も行われているが、脳幹以外の大脳間脳などの機能が失われていて、意識が戻らず、食べたり飲んだり、しゃべったりはできない。自発呼吸が行われているので、人工呼吸器がなくとも呼吸ができている状態で、脳死とは異なる。

 植物状態は長期化する可能性があるが、脳死状態はあまり長期化せず、脳死状態がしばらく続いた後、心臓は停止するとされる。

 
 

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