バソプレシン
『1年生の解剖学辞典』~ 解剖学をこれから学ぶ人向けの用語解説 ~
バソプレシンとは、またはバソプレッシンとは、別名 抗利尿ホルモン とも呼ばれるホルモン。アミノ酸 9コからなるペプチドホルモンで、下垂体後葉から分泌される。作用は大きく2つあり、どちらも血圧を上げる作用である。ひとつは、水分がより多く体内に保持されることで血圧が上がるように、腎臓で尿がつくられる途中で尿から水分を再吸収させて、尿を濃くし、つくられる尿量を減らす作用、もうひとつは、全身の血管を収縮させて血圧を上げる作用である。1つ目の作用に対して付けられた名前が 抗利尿ホルモンで、バソプレシンの名前は、2つ目の作用(血管(vaso)を締め付ける(press))に表れている。
言語 | 表記 | 発音、読み方 | |
---|---|---|---|
日本語 | 医学 | バソプレシン、バソプレッシン | |
抗利尿ホルモン* | こうりにょうホルモン | ||
英語 | vasopressin** | ヴェイゾ-プレッスィン | |
antidiuretic hormone*** | エンティ-ダイウレティック・ホーモン | ||
略語 | VP† | ヴィー・ピー | |
AVP† | エイ・ヴィー・ピー | ||
ADH*** | エイ・ディー・エイチ |
* | 抗利尿とは、利尿(=尿をつくるのを促進する)を抑える、という意味。「抗利尿ホルモン」と「バソプレシン」はふつうは全く同じ意味で区別せずに使うが、「抗利尿ホルモン」はその作用に対して付けられた名前で、具体的な物質名としては「バソプレシン」である |
** | vasopressin は、vaso- が「血管の」、pressin が press(圧迫)するもの。vasopressor (ヴェイゾ-プレッサー)は昇圧剤の意味 |
*** | 抗利尿ホルモンに対応する英語名、この略語は ADH (antidiuretic hormone) |
† | VP は、vasopressin の略。AVP は アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin)の略で、8番目のアミノ酸がアルギニンになっている、「ヒト型のバソプレシン」を指す。ブタなどの一部の哺乳類で、8番目のアミノ酸がリジンである「リジンバソプレシン」(LVP)と区別するときに使う |
バソプレシンはある神経細胞(バソプレシンニューロン)から分泌される。バソプレシンは下垂体後葉ホルモンだが、バソプレシンニューロンの細胞体がある場所は下垂体後葉ではなく視床下部で、その軸索が下垂体後葉まで伸びている。血液に分泌されるのは神経終末のある下垂体後葉からである。神経細胞から、シナプスへの神経伝達物質ではなく、血液中にホルモンなどが分泌されることを神経分泌という。同じく下垂体後葉から分泌されるオキシトシンも神経分泌である。視床下部でバソプレシンニューロンの細胞体がある場所は、室傍核や視索上核などの神経核である。
- バソトシン:ヒトをはじめとする哺乳類の抗利尿ホルモンはバソプレシンだが、哺乳類以外の脊椎動物の抗利尿ホルモンはバソトシンという。同じ9コのアミノ酸からできているオリゴペプチドだが、3番目のアミノ酸の種類が違っている。