前鋸筋
『1年生の解剖学辞典』~ 解剖学をこれから学ぶ人向けの用語解説 ~
前鋸筋とは、肩甲骨の深層(肩甲骨の裏側または肩甲骨の前方)を走る筋(骨格筋)。別の言い方をすると、肩甲骨のある胸郭(肋骨でできた胸壁)とのすき間にある平べったい筋。胸郭に対して肩甲骨(とそれにつながる上肢全体)を外側、前方に引っ張るはたらきがある。
言語 | 表記 | 発音、読み方 | |
---|---|---|---|
日本語 | 医学 | 前鋸筋 | ぜんきょきん |
英語 | serratus anterior (muscle) | セラータス・アンティリア―(・マッスル) | |
anterior serratus muscle | アンティリア―・セレイタス・マッスル | ||
ラテン語 | musculus serattus anterior | ムスクルス・セラトゥス・アンテリオール |
前鋸筋の名前は、前方にあるノコギリ形の筋の意味で、前鋸筋が肋骨につく部分の端(前鋸筋の起始部)の形が、肋骨ごとに三角形に入り組んでギザギザしている形から。ノコギリの名前のつくもうひとつの筋である後鋸筋は、背骨(椎骨の棘突起)と肋骨をつないでいる深部にある筋なので、こちらは肩甲骨に付く筋ではなく、前鋸筋と逆の働きをする筋という訳ではない。
起始と停止 †
前鋸筋は肩甲骨と胸郭(をつくる肋骨)をつないでいる。「起始」は胸郭の側面で多数の肋骨からはじまる。肩甲骨に付いている側が「停止」にあたり、肩甲骨の内側縁に付いている。
働き †
前鋸筋が収縮すると肩甲骨の内側縁を外側、前方に引き寄せることになる。この動きは、鎖骨と肩甲骨からなる上肢帯を正中から離す動きなので、上肢帯の外転にあたる。
前鋸筋の拮抗筋は、肩甲骨を内側に引き寄せる(=内転させる)菱形筋、小胸筋、僧帽筋など。
神経と血管 †
前鋸筋の支配神経は腕神経叢から出る長胸神経。
前鋸筋に血液を供給する血管は2つあり、肩甲骨内側からの外側胸動脈と、肩甲骨外側からの胸背動脈から血液を供給される。これらの血管は、肩甲骨の深層(前方)の前鋸筋の近くで吻合する。外側胸動脈は腋窩動脈の枝で、前鋸筋の他に肩甲下筋へ行く血管。胸背動脈は腋窩動脈から分かれた肩甲下動脈の枝で、前鋸筋の他に広背筋に行く血管。